
女のコはリボン、男のコはヘアバンド? ジェンダーなファッションの「ポパイ少年」って⁉
装い今昔物語 昔の雑誌を紐解けば、今の装いが見えてくる。連載一覧はこちら
いであつこ
仏・イボルンヌ大を主席で卒業。平成服装女子学院トレンドマスコミ学部准教授。服飾誌研究家として活躍中。コラムニストのいであつしとは双子の兄妹。
このコラムの担当編集さんが女性から男性の方になりました。「バトナー」のニットに「CIOTA」のデニムで「パラブーツ」を履いたメンズララビギン君です。
ララビギンの兄妹誌の「ビギン」の読者を「ビギン君」と呼ぶように、流行りのスタイルはいつだってメンズ誌から生まれます。「ポパイ」といえば「シティボーイ」ですが、DCブランドが最盛期の1980年代中頃に「ポパイ少年」と呼ばれていた時代もありました。
ポパイ少年は、オーバーサイズのアメカジの服にキャップを被ってスケボーをするシティボーイとはまるで違います。典型的なスタイルは、刈り上げのショートボブにヘアバンドを巻いて、衿が異常に大きくてブラウスのような「デカ衿シャツ」に、靴の先端が異様に膨らんだ「オデコ靴」というシューズ。まさに少年と呼ぶほうがお似合いな、今でいうジェンダーなファッションなのでした。
例えば1986年6月のポパイのヘアスタイル特集号を紐解くと、「今年こそヘアバンド」と題して「女のコは髪にリボンをつけてお洒落を楽しんでいる。じゃあ、男のコは? 最近ヘアバンドが注目されてるね。早速、挑戦しよう。」や、「街でヘアバンド少年を見かけると、お、やるう!と思うよね。ボクらの重要なアイテムとして見逃せない」と、ヘアバンドをゲキ推し。ちなみに一番人気は「モッズ・ヘア」の黒いヘアバンドです。
1987年5月号のポパイを紐解くと、「デカ衿の時代。ジャケットからデカ衿が顔を出した」と題して、「トキオ・クマガイ・オム」や「ミルクボーイ」、「クー・ドゥ・ピエ」といったDCブランドのデカ衿シャツを紹介して、ビームス時代の栗野宏文さんがデカ衿ブームについて考察していたりします。
「気がついたら靴が太りはじめている。」というタイトルで、オデコ靴の火付け役の英国の靴ブランドの「パトリック・コックス」や「ジョン・ムーア」、「ドクター・マーチン」も紹介されています。
ポパイ少年のファッションスタイルを提案して流行らせたのが、当時のファッションディレクターだったスタイリストの山本康一郎さんです。
1986年3月号を紐解くと、「ポパイがアイビーを卒業して1年。コイツ渋いなっていう奴はデザイナーズブランドを着ている」と題して、『アンアン』のスタイリストたちとポパイ少年のスタイルについて対談しています。
この頃のポパイは、創刊当時から続いたアイビーな「ポパイ小僧」から、ジェンダーなポパイ少年へと変わる端境期だったんですね。
おせっかいなファッション用語辞典
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栗野宏文さん
スズヤ、ビームスを経てUA(ユナイテッドアローズ)設立に参加。UAの上級顧問、クリエイティブディレクション担当。世界のファッションカルチャーのことならクリノさんに聞け!が業界の常識です。
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ドクター・マーチン
英国の老舗ワークシューズブランド。履きやすいエアソールで、1970年代にパンクロックバンドが履いてファッションアイテムになる。最近は「マーチン女子」と呼ばれるコンサバな女子にも人気がある。
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山本康一郎さん
『ポパイ』出身の大御所スタイリスト。様々なブランドと組んで自身が欲しいモノをディレクションする「スタイリスト私物」も大人気。クリエイティブディレクターとして2度のADC賞も受賞している。
連載「装い今昔物語」

昔の雑誌を紐解けば、今の装いが見えてくる。
[LaLa Begin 2023年 2月号の記事を再構成]資料協力/神保町magnif マンガ/しまだたかひろ ※掲載内容は発行時点の情報です。