
雑誌『アンアン』が命名。ボーイな女に似合う“スーパーカジュアル”って?
装い今昔物語 第4回 昔の雑誌を紐解けば、今の装いが見えてくる。連載一覧はこちら
いであつこ
仏・イボルンヌ大を主席で卒業。平成服装女子学院トレンドマスコミ学部准教授。服飾誌研究家として活躍中。コラムニストのいであつしとは双子の兄妹。
ボーイな女としましては、そろそろ「スーパーカジュアル」がリバイバルしてもらいたいものです。なんだかちょっと強そうなカジュアルですけど、命名したのは80年代の初め頃の『アンアン』です。
この頃のアンアンはファッションもカルチャーもイケイケでした。スーパーカジュアルって、なに? この頃のアンアンってどんな雑誌だったの? 今回はこの時代について紐解いてみましょう。
1981〜83年にかけて、パリや東京では「イタリアンカジュアル」が大ブームでした。イタリアンカジュアルとは、アメリカに憧れるイタリアのおしゃれさんたちのカジュアルスタイルやブランドのこと。略して「イタカジ」とみんな呼んでいました。ちなみにイタリアンレストランのことはイタメシ。トラットリアとかバールとか、そんなおしゃれな呼び方はまだ誰も知りません。
当時のアンアンではイタカジをスーパーカジュアルと命名して、大々的に特集していました。スーパーカジュアルを代表するブランドが、マリテ+フランソワ・ジルボーが手がけていた「BALL」と「クローズド」です。
82年のアンアンの新年号を紐解いてみると、青山にあった「BALLショップ」は「おしゃれ感覚人間の間では誰知らぬ者のいない店。土日は満員電車並みの混みよう」なんて紹介されています。当時、ジルボーのペダルプッシャーパンツはアメカジの大学生の男の子たちまでがリーバイス501からはき替えるほど大ブームになったのでした。
他にも、「シャルルシェビニオン」のストーンウォッシュレザーのライダーズも大人気でした。82年秋のアンアンを紐解いてみると、スタイリストの貝島はるみさんが「パリでは1年前から大人気。この秋、ジージャンに代わって流行しそうなのがストーンウォッシュの革ジャンパーなるもの」と推しまくっています。
スーパーカジュアルの基本スタイルは、ショートブルゾンに細身のテーパードパンツ。「シピー」や「ピカデリー」など新進イタカジブランドが黒船のごとく続々と上陸したのでした。
この時代のアンアンの顔といえば、くればやし美子さんです。コケティッシュな顔だちと日本人離れした体型で表紙を飾っていた専属モデルです。クローズドのペダルプッシャーパンツにシェビニオンのストーンウォッシュのライダーズジャケットが似合う、読者の憧れの存在なのでした。
美子ちゃんならぬビ子ちゃんにも、ぜひスーパーカジュアルに挑戦してもらいたいわね。絶対お似合いよ。
おせっかいなファッション用語辞典
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BALLショップ
青山のキラー通りにあったジルボーのショップ。他にも今のUA原宿本店近くにあった「スーパーボール」というイタカジのブランドをセレクトしていたショップが、当時の東京で一番イケていた。
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ペダルプッシャーパンツ
フランスのデザイナーのマリテ+フランソワ・ジルボー夫妻が考案したパンツ。自転車のペダルを踏む時にじゃまにならないシルエット、独特の前ポケットで、501以来の画期的なパンツと呼ばれた。
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ストーンウォッシュレザー
軽石で特殊加工をして古着のような風合いにした革。古着のライダースが大好きなパリジェンヌから人気に火がついた。東京では代官山にあった「ヌヌシュ」というセレクトショップが取り扱っていた。
連載「装い今昔物語」

昔の雑誌を紐解けば、今の装いが見えてくる。
[LaLa Begin 2022年 2-3月号の記事を再構成]資料協力/神保町magnif マンガ/しまだたかひろ ※掲載内容は発行時点の情報です。